⑴ M&A の目的
M&Aは「1+1=2」で規模を拡大させることだけが目的ではありません。
M&Aによるシナジーにより、「1+1=3、またはそれ以上」を目指すものだと認識しています。
シナジーとは一般的には相乗効果のことですが、M&Aの場面においては、各社がそれぞれに持っている経営資源等を相互に活用することで、各社が単独で事業活動をする以上のメリットが発現されることを指します。つまり、A社単独なら「1」、B社単独なら「1」、A社とB社が統合したら「3」になる、そんなイメージ。
⑵ デューデリジェンスの重要性
ところが、「1+1=2」どころか「1+1=1」、「1+1=0.5」、「1+1=マイナス」になるという事態も起こりえます。これについては、「稀にあります」と言いたいところですが、残念ながら経験上相当数あります。
なぜ「1+1=2」未満になってしまうのでしょうか?
その主たる原因は、デューデリジェンス不足です。
デューデリジェンス(Due Diligence・以下DDと略します)とは、買収監査のことですが、図表のとおり、多くの種類があります。
つまり、様々な側面からチェックします。DDについては、よく結婚前の身調べに例えられますが、私も婚活マッチングアプリに例えて説明しています。X(旧Twitter)のスペースで発信させて頂いておりますので、ご興味あればアーカイブ(録音)をご参照頂ければと存じます。
⑶ 労務DDの立ち位置
DD不足が「1+1=2」未満となりM&Aの失敗を引き起こすわけですが、実際のところ小規模案件では、M&A仲介業社によってはDD自体行うことを想定していないケースが多く存在します。私自身もクライアントの案件でそれを経験しました。
一方で、DDを行う場合でも、財務DDがメインで労務DDは「そのついでに行う程度」ということも多いです(かく言う私も財務DD担当のコンサル時代、まさにそうでした)。また、弁護士の行う法務DDのセットということもあります。
この点、普段から労務問題に精通している社会保険労務士(社労士)が積極的に関与していくべきだと私は考えています。
⑷ 労務DDの重要性
財務的な問題で想定していた利益計画の通りにならず、「1+1=1」になってしまう事はありますが、「1+1=マイナス」になるような最悪の事態、とんでもない地雷は「ヒト」の問題に起因することが多いです(業種によっては法務的瑕疵や環境的瑕疵も重大ですが)。
この点、未払い残業代計算の話はメジャーですが、人事・労務リスクはそれだけに尽きません。
たとえば、形ばかりの諸規程、キーマンの退職、問題行動を起こす社員の存在、長時間労働の文化、隠れたいじめ・ハラスメント等の問題も考えられます。
これらの問題は買収前に全て解決することが理想ですが、仮にそこまで至らなくても問題が生じるリスクを予見しておくことが重要です。つまり、あらかじめ予見してあるか、全く想像もしていなかったかでは雲泥の差というわけです。
⑸ クライアントにおけるDDのニーズと当事務所の役割
それなりに時間を使って精密にDDを行うのが好ましいですが、そう簡単にはいかない状況もあることは重々に理解しています。時間的問題や費用的問題などクライアントによって抱えている状況は様々なわけです。
当事務所(厳密には事業会社のほう)では、クライアントのニーズに合わせた簡易DDも行っていますが、たとえ簡易的なDDであっても前述の様に「何もやらない」よりは100倍マシだと認識しています。