⑴ 話題の正体と令和7年度税制改正大綱
2024年12月22日頃、SNS上で確定拠出年金(iDeCo)に関する事項がトレンド入りされていました。
その根拠は、令和6年12月20日決定の令和7年度税制改正大綱(第二 令和7年度税制改正の具体的内容/個人所得課税34頁(4))において、「退職手当等(老齢一時金(確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金をいう。以下同じ。)を除く。)の支払を受ける年の前年以前9年内に老齢一時金の支払を受けている場合には、当該老齢一時金について、退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除の特例の対象とする」と記されていたところによります。
あまりイメージが湧かないので、具体例で考えてみます。
端的に言うと、今回の話は、退職所得控除額の計算における5年ルールが10年になるという話です。
要は、「60歳でiDeCoの老齢一時金を貰ったのなら、70歳以前に貰う退職金には課税する」ということ。
⑵ 具体例の設定と計算
こういう話は具体的に試算してみるのが手っ取り早いので、計算してみます。
公の統計データによると、中小企業に定年退職まで勤務した場合のモデル退職金は、大卒で約1,092万円とされています(東京都労働産業局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」参照)。
したがって、退職金は勤続40年として1,100万円が支給されるものとして考えてみましょう。また、確定拠出年金は毎月2万円の掛金×30年だと想定し、720万円とします。
これを本件事例に当てはめると、
退職所得控除額:800万円 + 70万円 × (40年 - 20年) = 2,200万円
すると、退職金1,100万円に確定拠出型年金の720万円を足しても1,820万円ですので、
平均程度の退職金の場合は、仮に9年以内のスパンであっても、退職所得控除の範囲に収まり、退職所得は発生しません(税負担なし)。
したがって、本件は平均以上の退職金が予定される場合に問題になるトピックといえます。
つまり、割合的には多数の方にとってあまり関係のない話です。
あくまで私見ですが、SNS上の情報拡散には過度に惑わされず、まずは自分自身がそもそも該当するか否かを冷静に分析することが必要かと思われます。
それでは、上記の事例において、退職金を2倍にしてみたらどうでしょうか。
退職金2,200万円に確定拠出型年金の720万円を足すと、2,920万円ですので、退職所得控除額を720万円オーバーします。その2分の1が退職所得となりますので、360万円です。
これにその将来の年における所得に応じた所得税率が乗じられ、所得税額が算出されます。
特に事業等は行っておらず、一般的な年金収入世帯ゾーン(課税される所得金額が3,300,000円から6,949,000円まで)だとしたら10%でしょうか。
すると約36万円の税負担が発生する見込みとなります。
金額のボリュームはこれくらいです(細かい個別事情を考慮しないざっくり計算ですが)。
⑶ 今後の見通しと自己判断
上記⑵後段の計算結果のとおり、令和7年度税制改正大綱においては、これまで想定していた「60歳でイデコ、65歳で退職金」というケースで退職金額が多額な場合、課税関係が生じることになり、掛金拠出時の非課税メリットは薄まります。
とはいえ、将来の投資判断を税負担という事情のみをもって否定的に判断するのは、個人的にはやや疑問が残ります(運用損益のほうがはるかに金額が大きいので)。
また、税制や年金制度は社会情勢によって変遷していくのが過去の歴史的経緯からも自明の理です。将来きっと変わっていくであろうという事も前提にライフプランニングする必要があります。まずは具体的に自身の退職金額を試算し、そのうえで様々な投資方法(確定拠出型年金(iDeCo等)、NISAによる積立投資、自らの選択による現物投資、不動産投資、仮想通貨等)を検討し、自分のスタイルに合ったものを選択するのが適切なのではないでしょうか。