選択制DCとは
概要
選択制確定拠出年金(選択制DC)は、従業員がそれに加入するか否かを選択できる仕組みとなっている企業型確定拠出型年金(企業型DC)です。
すなわち、選択制DCに加入することを選択した者は企業年金の事業主掛金が拠出され、加入しないことを選択した者は事業主掛金相当額を給与等(一般的には、生涯設計手当やライフプラン手当と称する手当)として受け取ります。要するに、給与の一部について、引き続き給与で受取るか、企業型DCの掛金とするかを従業員が選択するというものです。
生涯設計手当やライフプラン手当の賃金性
労働基準法第11条において、賃金とは、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と規定されていますが、選択制DCにおける事業主掛金については、労働基準法上、賃金には該当しないとされています(第29回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 2023年11月13日)。したがって、最低賃金法第2条第3号において、賃金とは「労働基準法第十一条に規定する賃金をいう」と規定されているため、選択制DCにおける事業主掛金については、最低賃金法上も賃金に該当しないという結果となります。
社会保険料の削減効果
選択制DCにおける事業主掛金は、賃金ではないため、社会保険料の対象にもなりません。
この点は、iDeCoやマッチング拠出による事業主掛金とは異なります。
一般的に、選択制DC導入による社会保険料の減少、削減効果はメリットとして紹介されています。
ただし、選択型DCは、労働条件の不利益変更になりうるとともに社会保険や雇用保険等の給付額にも影響する可能性(ただし、金額としては僅少)があり、事業主はこれらの点を含めて正確な説明をする必要があります(厚生労働省/「加入者のための企業年金の見える化」46頁)。
最低賃金との関係性
最低賃金法の「賃金」とは
ここで、最低賃金法の規定を確認しておきましょう。
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であり、具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
① 臨時に支払われる賃金(結婚手当etc)
② 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与etc)
③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金etc)
④ 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金etc)
⑤ 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金etc)
⑥ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
思わぬトラップ
選択制DCにおける事業主掛金が労働基準法及び最低賃金法上の賃金には該当しないため、選択制DCを導入したことが契機となり、当該従業員の給与が最低賃金を下回る場合があります。
すなわち、最低賃金の対象となる金額を算出した上で、月給制の時間給換算として、月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で除して計算し(最低賃金法施行規則第4条第3項)、算出された額と最低賃金法で定める最低賃金額との差額が労務デューディリジェンス(労務DD)の場面では簿外債務となります。
具体例
以下の画像をご覧ください。
一見すると、最低賃金額以上の賃金を支払われているように思えます。


しかし、生涯設計手当、固定残業手当及び通勤手当は最低賃金法の除外賃金であり、結果的には基本給の189,000円のみが最低賃金法の対象となります。
したがって、当該189,000円を月における所定労働時間数174時間で除して計算すると1,086円となり、東京都の最低賃金額(2025年4月時点では1,163円)を下回る結果となります。
以上のとおり、頭では理解はしていても、いざM&Aに係る労務DDの場面における賃金台帳上の調査では、一見分かりにくい場合がありますから注意が必要です。

社会保険労務士 佐藤 裕太
TRY-Partners社会保険労務士事務所 代表
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■ 全国社会保険労務士会連合会 登録番号 13240356号
■ 東京都社会保険労務士会 会員番号 1331899号
■ 東京都社会保険労務士会千代田支部 開業部会 委員